令和2年度施政方針

更新日:2020年02月25日

2年2月25日

 

(令和2年度に至る諸情勢)

今年度は新しい元号である「令和」の発表でスタートし、4月30日の退位礼正殿の儀、5月1日の剣璽等承継の儀、即位後朝見の儀、そして改元、令和元年への移行と、新しい時代の幕開けに国民が酔いました。30年前の昭和64年1月7日、昭和天皇の崩御と翌8日の剣璽等承継の儀からの一連の儀式は、国民がこぞって喪に服し、自粛ムードでの平成元年であったことを思い起こすと隔世の感があります。米ソ冷戦の終焉とバブル景気の崩壊で混沌とした平成の船出をした日本は、阪神淡路大震災、東日本大震災という未曾有の自然災害と、世界に先んじた人口減少社会の本格的到来から、失われた30年をもがき苦しんできました。そうした世情を一変させたのが上皇陛下の「平成の玉音放送」であり、国民生活に影響を与えないための御譲位による新時代の開幕という御決断でした。

その一方、9月の令和元年台風15号による千葉県の大停電、10月の同台風19号による広範な激甚災害などの大規模自然災害への対応は平成時代から継続した国民的課題とされるとともに、10月1日に施行された消費増税による経済への影響がようやく表れてこようとしています。国政においては、公文書管理をめぐり国民の政治不信が高まっています。

翻って世界的には、自由、民主主義、基本的人権、法の支配などの価値観を共有するかどうかで大きく二分された一年でもありました。昨年6月に始まった香港の民主化デモは11月の区議会議員選挙で民主派の勝利を実現しましたが、中華人民共和国政府が強硬姿勢を示して一国二制度に対する圧力を強めたため、トランプ大統領は香港人権・民主主義法案に署名、12月には連邦議会でウイグル人人権法案も可決されるとともに、今年1月の台湾総統選挙で民進党の蔡英文総統が再選するに至り、一党独裁、覇権主義、一帯一路、人治主義などの膨張が抑止されました。

また、昨年8月にはINF=中距離核戦力全廃条約が失効しました。米ロ核軍拡競争の歯止めのひとつが失われるとともに、12月の米ロ外相会談では、来年2月に期限が到来する新START=新戦略兵器削減条約についてもその延長を望むロシアに対して、新技術の登場と高性能兵器の拡散に対応するため中国人民解放軍も対象にしたいアメリカは難色を示しており、このままでは核軍縮についての無条約時代を迎える可能性があります。ロシア、中国とともに海洋運命共同体を構成するイランは、昨年5月のアメリカによるイラン核合意離脱、6月のホルムズ海峡タンカー攻撃事件以降注目され、今年1月にはアメリカ軍による軍司令官暗殺を受けて強い反米姿勢を示したものの、国内の宗教弾圧による人権侵害が国際社会の批判を浴びています。

そうした流れに大きく介入したのが昨年末からの新型コロナウイルスの流行でした。国内政治は国民の命と健康を守る防疫から感染拡大防止が政策の中心に躍り出、国際政治はパンデミック回避のため大陸からの人的移動をいかに阻止するかに躍起となりました。中国共産党は全国の都市を封鎖して戦時体制を構築しましたが、経済成長戦略に大きなダメージを受けることから、言論の自由を抑圧したままでの今後の人民統治に大きな不安を抱えることとなりました。今年7月から8月にかけて東京を中心に開催が予定されている第32回夏季オリンピック・パラリンピック大会にも小さな不安が顔を覗かせています。

イギリスは今年2月のブレクジット断行により、再び栄光ある孤立を選択しましたが、これはあくまでもヨーロッパ内でのことであり、今後は北米や極東との関係を強化するためのEUとの移行期間に移りました。アメリカでは今年11月に大統領選挙を控えており、選挙結果によれば一気に世界情勢が流動化する可能性がありましたが、弾劾裁判を乗り切り、貿易戦争の相手国であった中国が新型コロナウイルスで傷ついた今、このまま何事もなければトランプ大統領の再選の可能性が高まっています。このことは、昨年12月に発効した日米貿易協定に基づく今後の対日要求拡大にも予断を許しません。

わが国経済は、海外経済の減速等を背景に外需が弱く、内需を中心に緩やかに回復してきましたが、今後は消費税率引上げ後の経済動向や自然災害の被害からの復旧・復興、さらには海外発の下方リスクによる悪影響に備える必要があるとされています。政府は、「15か月予算」の考え方で、「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」に基づいて、予備費を含めた令和元年度予算、令和元年度補正予算および令和2年度の臨時・特別の措置を適切に組み合わせることで、機動的かつ万全の対策を講じ、民需主導の持続的な経済成長の実現につなげていこうとしています。そのため、全世代型社会保障の構築に向け、社会保障全般にわたる持続可能な改革を進めることで一億総活躍社会の実現に取り組むとともに、ソサエティ5.0時代に向けた人材・技術などへの投資やイノベーションの促進、自然災害からの復興や国土強靱化、観光・農林水産業をはじめとした地方創生、地球温暖化などSDGsへの対応を含むグローバル経済社会との連携など重要課題への取組を行うこととしています。

今後、わが国を取り巻く内外情勢は極めて厳しくなる可能性があり、緊張感を伴いながら情勢の推移を見守る必要があります。とりわけ、基本的人権を守る闘いは世界人類共通の目標であり、最大の人権侵害である戦争の防止には積極的に努めなければなりません。そのためには、議論を交わしながら合意を紡ぎあげていくという人類共通の知恵の活用が大切であり、過去の取り決めの一方的な破棄や社会的分断のなかでの非難合戦ではなく、落ち着いた環境での建設的な討議が求められます。

(総合計画と財政運営の方向性)

現在、本市では、計画期間を令和3年度からとする総合計画の『後期基本計画』について策定作業を進めております。一方、今年度で計画期間を終了する『きらめき・ときめき・元気創生総合戦略』については、計画期間を1年間延長し、『後期基本計画』に盛り込みながら改訂をしてまいりたいと考えております。

『総合戦略』を含む『後期基本計画』を策定するにあたりましては、今後の財政上の配慮を重ねてまいらなければなりませんが、政府が令和2年度の『地方財政計画』において、地方が人づくり革命の実現や地方創生の推進、地域社会の維持・再生、防災・減災対策等に取り組みつつ、普通交付税交付団体をはじめ安定的な財政運営を行うために必要となる地方の一般財源総額について、令和元年度『地方財政計画』の水準を下回らないよう実質的に同水準を確保することを基本としておりますことから、これをもとに今後の財政運営の方向性を見極めながら、令和2年度当初予算案を編成してまいりました。

ところで、今月7日、湖南市工業会の産官交流会がありました。その場で、日本IBM執行役員の講演をお伺いしましたが、昨年、AIがアメリカのディベートチャンピオンと対戦したそうでございます。そのビデオを鑑賞いたしましたが、「民間保育園に助成をすべきかどうか」というテーマについて、同時に知らされた人間とAIがともに15分間考え、4分ずつ主張し、さらに4分ずつ反論して、最後に結論を2分述べるというルールで戦っていました。人間側は、基本は自己責任であり限られた税金はもっと別の使途に充てるべきだという主張をしていましたが、それに対してAI側は、予算全体は大きく幅広いので、あれかこれかの選択ではなくそれぞれ必要な対応をすべきだという答えを引き出していました。AIは大量の複雑に絡み合ったデータを深層学習で短時間に処理することができることからこうした結論に至ったようですが、財政全体はかなりのボリュームがあり、しかも国の会計と地方財政は密接に絡みあっていることから、継続費も含めて単年度で個別に見るわけにはまいりません。まさに財政は生き物であるともされるところです。

そこで、成長戦略に向けて歳入を増加させるための経済対策を行い、非常に大きな財政支出となっている社会保障経費の継続的な確保に努め、命を守るための防災・減災対策には必要な歳出を行い、債務負担行為や地方債、基金などで年度間の調整をしながら、時々刻々と変化する財政運営に努めてまいっております。令和2年度一般会計当初予算案は、今年度一般会計当初予算と比較して1億2千万円減の総額208億6千万円とし、平成30年度、令和元年度に続き、平時ベースでの予算編成に努めたところです。湖南市誕生以降、合併特例債や学校教育施設等整備事業債、緊急防災・減災事業債などを活用しながら、起債により一定期間集中して公共投資を行った後、しばらくは平時ベースとして投資を控えながら元利償還と基金造成に努め、財政が体力的に回復すると再び集中的に公共投資を行うというトレンドを本市では繰り返してきております。今後もこうした安定的な財政運営を進めてまいります。

(基本的人権の尊重に向けて)

近年、基本的人権が脅かされる世界が現出されつつありますが、本市におきましては、市民の基本的人権を守るバイブルとなる『人権擁護総合計画』が計画期間の満了を迎えており、引き続き、女性、子ども、障がい者、高齢者、外国人、同和問題など幅広い人権問題に体系的に取り組む必要があるため、今年度実施いたしました「人権に関する市民実態調査」および人権擁護審議会での審議を踏まえ、従来の「同和対策基本計画」、「人権教育推進計画」、「人権・同和福祉計画」を取り込んだ新しい『人権擁護総合計画』の策定を進めていきます。

また、『男女共同参画アクション2017プラン』についても令和3年度の見直し作業に向けて事前調査を実施するとともに、多文化共生社会の推進については、外国人受入環境整備交付金等の活用により一元的な外国人相談窓口の整備を行い安定的に運営しながら、翻訳機等の導入により外国人市民の生活支援を展開していきます。さらに、老朽化した松籟会館の改築事業については、令和元年度当初予算をお認めいただき鋭意諸準備を進めてまいりましたが、国による補助事業の内示が今年1月末までずれ込みましたことから、繰越しの手続を踏み、令和2年度に工事着手をしてまいりたいと考えます。

子どもに関しては、今議会にその策定についてご報告を予定いたしますが、第2期『子ども・子育て支援事業計画』に基づき、4月からは公立保育園・幼稚園・こども園の民間移管を実施いたしますとともに、中学校区ごとに『(仮称)子ども家庭総合センター』を開設して子育て支援コンシェルジュを置き、保健センターと連携しながら妊娠期から子育て期にわたるまでの切れ目ない支援を行う『子育て応援サポートセンター』の体制強化を図ってまいります。妊婦健康診査についての助成を拡充するとともに新生児聴覚検査費の助成を新設し、妊娠から出産に至る支援を強化します。子育て家庭の負担軽減に向けては、今年度からスタートさせた養育費保証促進補助金制度を継続するとともに、乳幼児医療費の助成、小中学生に対する入院医療費の助成に加えまして、自己負担額が年間5万円を超える部分に対する通院医療費についても助成を拡大してまいります。また、ひとり親家庭の子どもやその母親・父親に対して医療費の助成も行ってまいりますが、小中学生に対する通院医療費助成については、国民健康保険の県内統一に向けて検討をする前提として県による一体的な実施を求めますとともに、財政状況を見合わせながら段階的な独自の助成拡大についても検討してまいります。学童保育については、利用者の増加に対応して、三雲、菩提寺、水戸で支援単位を増設し、下田で増築工事を行うとともに、さらなる児童虐待防止に向けて、(仮称)子ども家庭総合センター、家庭児童相談室の機能連携型で『湖南市子ども家庭総合支援拠点』を整備し、包括的・総合的に対策を講じてまいります。

高齢者については、令和2年度で第7期の計画期間を終える『高齢者福祉計画・介護保険事業計画』の最終年度事業について進めるとともに、着手いたしました第8期計画の策定作業を進めていきます。とりわけ、医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律(令和元年法律第9号)の公布により改正された高齢者の医療の確保に関する法律、国民健康保険法、介護保険法の規定に基づきまして、人生100年時代を見据えて、高齢者の健康増進を図り、できる限り地域で生き生きと過ごせる社会としていくために、高齢者一人ひとりに対して、きめ細かな保健事業と介護予防を実施することとしております。具体的には、高齢者の訪問調査等により可能な限りつながりと役割を提供するとともに、いきいき100歳体操やこなんTHEボイスプロジェクト、100歳大学に加え、健康寿命延伸事業としての100日チャレンジ事業などにより、高齢者のフレイル状態の予防や健康増進、生きがいづくりに取り組んでいきます。

障がい分野では、平成31年度から第2次『障がい者の支援に関する基本計画』に基づいて取り組んでいますが、昨年6月に『福祉避難所開設・運営マニュアル』を策定するとともに、避難行動要支援者名簿の管理システムの更新作業を進めており、令和2年度以降も地域と連携して災害時に備える訓練を継続することとしています。

(災害に対する備え)

わたしたちの母なる地球は、時としてさまざまな災害をもたらします。地球では、太陽エネルギーを受けて最終的に赤外放射というかたちで宇宙空間に放出してエネルギー収支を均衡するまで、大気、海洋、陸地、雪氷、生物圏の間でエネルギーを循環しますが、大気や海洋対流の変化、大気中のエアロゾルの増加、太陽活動の変化、人間活動などにより気候が変動するとされています。近年では大きな気候変動に基づく激甚化した風水害が頻発してきています。また、わが国近海では太平洋プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレートの4つのプレートがせめぎあっており、南海トラフをはじめとしてわが国の周辺では地震の活動期に入っているとされています。

わが国は、その自然的条件からさまざまな災害が発生しやすい特性を有しており、近年においては、平成30年度の大阪府北部地震や米原市を襲った竜巻、北海道胆振東部地震、今年度の山形県沖地震、台風15号、台風19号など、大規模な自然災害が起きていることから、引き続き、令和2年度も自然災害についての備えをしていかなければなりません。自然災害が、激甚化し、広域化したうえに、毎年のように頻発化する状況には、行政だけでなく一人ひとりが災害のリスクとどう向き合うかを考え備えるという「防災4.0」の考え方が大切になってまいります。

自助としての想定浸水深の「見える化」事業を継続し、防災士連絡会を中心に地域防災リーダー育成プログラムに基づく人材育成事業や災害備蓄管理士育成事業による共助の仕組みを支援するとともに、公助の責任を果たす防災拠点となる複合庁舎整備事業や非常用備蓄品の備蓄、防災行政無線の維持管理などの防災活動推進事業という自助、共助、公助でバランスよく対応していくことといたします。菩提寺広野地先の大山池における冠水対策につきましても県と連携しながら取り組むとともに、漏水しているため池の機能を廃止するための工事を行います。

また、避難所となる学校施設について、耐震化と空調設備は整備しましたが、トイレにおける洋式トイレ(腰掛大便器)率の低い三雲東小学校、菩提寺小学校および日枝中学校について洋式トイレ整備のための設計業務を行い、早期整備につなげてまいります。さらに、緊急時に輸送路や避難路を確保するために、重要物流道路である国道1号の早期四車線化に向けた働きかけを国に対して行うとともに、老朽化した甲西中央橋の道路橋梁修繕工事に取りかかり、落合川橋等の橋梁修繕工事の測量設計を行うことといたします。

(ソサエティ5.0の時代に)

科学技術の発展は幾何級数的に伸びていきます。ソサエティ5.0の時代を力強く生き抜くために、子どもたちが早くからICT環境に馴染み、プログラミング教育だけではなく、キャリア教育への活用や学習障害児童生徒に対する学習支援などに資することのできることが求められています。国においては、令和時代のスタートに当たり、全国一律のICT環境を整備するためにGIGAスクール構想を打ち立てました。1人1台端末および高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、多様な子どもたちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを学校現場で持続的に実現させることとされており、本市においても年次計画に基づいて整備を進めてまいります。

市役所につきましても、ソサエティ5.0に対応して電子自治体化を推進していきます。これまでもおうみ自治体クラウド協議会への参加で基幹系システムや情報系システムの共同利用を進めていますが、これをさらに税・介護保険業務等のRPA化にまで進めてまいります。また、滋賀県や県内市町と共同で取り組む研究会に参加することで電子申請システムの導入を目指すほか、市の単独事業として、今年度発生した不祥事への対策としての電子入札システムの導入や行政事務の効率化を目的とした電子決裁・文書管理システム、AIを活用した会議録作成支援システム、AIによる保育所等入所調整システム、図書館カードのマイナンバーカード活用システムなど、市役所のAI化とICT化によるスマート化を促進することで、市民サービスの向上と職員の働き方改革につなげていきます。

広報広聴についても、ホームページやVtuberの活用をはじめ、アプリ『こなんいろ』や広報紙などそれぞれの情報媒体で行う情報を整理し、外国語での広報も含め、効果的な情報発信や情報収集に取り組んでいきます。

電子的な改革だけでなく、これまでからの行財政改革も引き続き進めてまいりますが、第4次となる『行政改革大綱』の策定に取り組むとともに、『公共施設等総合管理計画』に基づく各施設の『個別施設計画』を策定してまいります。これらにつきましては、議会への事前説明と意見交換を慎重に行いながら進めてまいります。あわせて、新たな財源の確保についても検討委員会を設置して模索してまいりたいと考えております。

(成長戦略を展開する)

本市の賑わいと活気を創出するために、成長戦略を展開していきます。現在策定中の『産業振興ビジョン』を令和2年度には完成させ、地域特性を活かした『湖南市型産業モデル』の創出を目指します。

古くは農業や地場産業、近年では湖南工業団地をはじめとする製造業の進出やそれに伴う運輸倉庫業の集積、さらには地域自然エネルギーを活用した地域新電力会社である『こなんウルトラパワー株式会社』や地域おこし協力隊であるNCL湖南など、この地域は魅力にあふれた様々な主体が活動を展開しています。

そうしたなかで、現在改訂作業中である『地域自然エネルギー地域活性化戦略プラン』に、地域循環共生圏構想を踏まえながら、SDGsの考え方を取り入れることで、地域にある自然エネルギーを活用したエネルギーと経済の循環による地域活性化を進めてまいります。まずは、SDGs未来都市モデル都市への挑戦を行い、選定されることで市内立地企業にSDGs未来都市立地企業であるとのアドバンテージを設け、イノベーションを盛んにしていくことに貢献します。また、市民や市内外の起業者を受け入れる仕組みを検討し、高齢化、後継者不足で廃業する事業者による市内の産業活力の低下を防ぐため、有望な事業の抽出や実際の事業継承に向けた取り組みを支援していきます。さらには、現在改訂作業中である『都市計画マスタープラン』による土地利用の見直しを図るとともに、令和2年度に向けて進めている大津湖南都市計画区域区分の見直しなどにつなげて都市機能の立地を誘導していきます。

また、『みらい公園湖南』を活用して引き続き市民農業塾やチャレンジ農園、農福連携事業による担い手の育成を行うとともに、既設基幹農業用水路の長寿命化工事による優良農地の確保や国際水準GAPの認証取得支援、弥平唐辛子のGI登録に向けた取り組みによる伝統野菜市場の創出、6次産業化による特産品開発などを通じた特色ある園芸作物の振興、さらにはその先に5Gを活用したスマート農業の実現を視野に入れていきます。

観光振興については、三大まつり、湖南三山めぐりなどのイベントを引き続き実施するとともに、令和2年度にウツクシマツの『保存活用計画』を策定し、保存の在り方についての結論を導き出したうえで地域と一体となって取り組める体制を構築するとともに、観光活用についても一定の方向性を打ち出すことを目指します。

人材の育成と確保については、令和2年度に『就労支援計画』を改定するとともに、引き続きマッチングの場の提供や資格講座等の就労促進のための取り組みを実施します。

(インフラ整備と公共交通)

こうした成長戦略を支えるのがインフラです。湖南市は、発足以来これまで、国道1号バイパス部分の暫定供用、国道1号石部大橋架橋、名神高速栗東湖南インター開設、県道竜王石部線菩提寺バイパス部供用、市道甲西線甲西橋架橋、市道南部中央線供用、市道三雲駅南線供用など、大きな道路整備は概成しました。今後は、先ほども申しましたとおり、国道1号暫定供用部の早期四車線化、(仮称)県道新中郡橋架橋をはじめ、市道整備については、現在策定中である『道路整備計画』に基づいて進めてまいります。

また、鉄道につきましては、JR甲西駅、三雲駅に続きまして、いよいよ本格的にJR石部駅周辺整備事業・駅舎バリアフリー化に取りかかることとなります。令和2年度は、鉄道事業者と基本協定の締結を行ったうえで、駅南北広場の実施設計や北口駅前広場用地の購入、南北自由通路整備に支障となる物件の改築工事などに着手し、早ければ令和5年の一部供用開始を目指してまいります。また、JR三雲駅周辺整備については、南側市有地利活用に関する事業推進を図ります。さらに、草津線複線化促進については、県ならびに沿線市町と連携を図りながら引き続き取り組んでまいります。

高齢者の増加に伴い、高齢者の運転免許証自主返納を奨励してきましたが、これまでもコミュニティバスの利便性についてのご指摘をいただいてまいりました。そこで、平均乗車密度の低いコミュニティバス路線を見直し、コミュニティタクシーを導入することで利便性を高めて乗車しやすくするとともに、その他の路線についても、高齢者等の日中の外出支援を促すためのコミュニティバスの料金体系についての検討を始めてまいります。また、老朽化したバスを更新するために中古車両を整備するとともに、地域デマンドタクシーにつきましても引き続き運行支援を行います。

さらに、交通安全対策として、歩道や信号機、横断歩道などの交通安全施設の整備に向けた取り組みを進めます。令和2年度においては、市道狐谷線および市道桐山1号線の歩道整備に係る用地測量や市道三雲畑線の歩道整備に係る測量設計、市道高松町103号線の舗装修繕工事を行うとともに、通学路としてのグリーンベルト等の整備をしてまいります。なお、信号機の整備については、昨年、滋賀県首長会議や滋賀県市長会で再三議論が交わされたことから、先日、知事に対して正式な要望ルートを確認したところ、市長から知事に対する要望以外は受け付けることはないということでしたので、引き続き必要な個所への設置要望を続けてまいります。

(地域まちづくりと市民生活)

地域においては、地域コミュニティの核となる区長会を中心に、地域の各種団体も参画する広域自治組織である地域まちづくり協議会による地域づくりの推進を目指してまいります。地域活性化推進事業交付金やクラウドファンディングの活用、コミュニティビジネスを中心とした新たな事業の展開などで、地域課題解決型の事業推進を図ってまいります。また、湖南市政策形成パートナー発掘事業「こなん政策アカデミー」で提案のあった若者を中心としたまちづくり組織「(仮称)TC Renovation」の創設を軸に市内の小・中学生および高校生がまちづくりに参加できるスキームを確立していくとともに、同じく若い世代から提案のあった動画作成プログラムを通じた子どもの居場所創出やグランドシッター制度などの実現に向けて取り組みます。さらに、地域支えあい活動についても、地域の会議に所管管理職員が参加することで、地域の実情に応じた展開をすることとしております。

健康づくりについては、特定健診、特定保健指導およびがん検診の受診率の向上を目指すことに加えて歯周疾患健診事業を拡充します。また、ヘルスケア事業やBIWA-TEKUなどへの参加者を増やして市民の行動変容を促すとともに、十二坊トレイルラン&ウォークやスポーツフェスティバルの運営の支援も含め、地域での健康づくりを進めていきます。また、一次診療の充実および在宅医療の推進については、引き続き「こなん在宅医療安心ネットワーク」において市内開業医や専門職の相互協力体制を構築していきます。

市営住宅整備事業については、茶釜団地3棟の長寿命化対策にかかる実施設計を行います。空家対策については空き家サポートセンター「あきやナクス」を運営して利活用に努めるとともに、特定空家認定手続を進めていきます。また、住居表示については引き続き着実に整備を推進します。

水道事業については、昨年度策定した「経営戦略」を基に、将来の更新需要を見据えた投資の平準化と現行の料金収入をベースとした財政計画との整合性を図り、さらなる経営の健全化・効率化を進めるとともに、下水道事業については、今後発生が予測される収支ギャップの解消に向けた取組の強化を図る必要から、今後においても予算の組み替えや資本費平準化債の借り控え等の経営手法を用いながら、さらなる業務の効率化と経費節減を推進し、自主財源である下水道使用料の滞納徴収の強化を図ってまいります。

(近隣自治体との外交方針)

近隣自治体との外交方針については、まず、甲賀市との関係につきましては、甲賀市・湖南市広域協議会の活動が低調ですので、インフラ整備や多文化共生社会の推進、環境政策の推進、公共施設やバスの相互利用などについてさらに連携を活発にしてまいります。また、甲賀広域行政組合においては、衛生センター第2施設の基幹的設備改良工事に取りかかりますとともに、公立甲賀病院組合においては、滋賀医科大学との地域医療教育研究拠点に関する協定に基づき医療従事者の確保に努めるとともに、地方独立行政法人化したメリットを十分に活かして一次診療施設との外来の役割分担を進め、病病連携や病診連携などの医療連携を主体とした機能分化を推進することにより、地域医療構想や地域包括ケアシステムにおける地域中核病院等の役割を発揮できるように適切な監督を図るための協議を行います。

栗東市との関係につきましては、栗東・湖南広域行政協議会で、国道1号整備、野洲川改修、JR草津線複線化だけではなく、旧東海道を活用したまちづくりや景観づくり、環境問題などでの連携を図ってまいります。野洲市、竜王町とは、野洲市・湖南市・竜王町総合行政協議会を通じまして、各市町をつなぐ道路整備や名神高速道路菩提寺パーキングエリアへのスマートインター設置などについて協力を進めてまいります。

(ねずみ年にあたって)

令和2年はねずみ年です。その上がらない風采からねずみの殿様と親しまれた国政政治家がいました。戦後の第1次吉田茂内閣と片山哲内閣で無任所国務大臣を務めた斎藤隆夫です。斎藤は但馬国出石郡、今の兵庫県豊岡市に生まれました。戦前戦後を通じて衆議院議員を13期務めた斎藤は、憲政の神様・尾崎行雄や五・一五事件で青年将校に暗殺された犬養毅と並び称される議会の子であり、生涯何度も名演説を残しています。

二・二六事件の硝煙も消えやらぬ昭和11年5月7日、軍隊を動かし、高官4名を殺害した軍部に向かい、斎藤は粛軍演説として後世に残る演説を行いました。

「苛も立憲政治家たる者は、国民を背景として正々堂々と民衆の前に立って、国家の為に公明正大なる所の政治上の争を為すべきである。裏面に策動して不穏の陰謀を企てる如きは、立憲政治家として許すべからざることである。況や政治圏外にある所の軍部の一角と通謀して自己の野心を遂げんとするに至っては、是は政治家の恥辱であり堕落であり、(ここで拍手)又実に卑怯千万の振舞であるのである。」

まさに、議会政治家の面目躍如であるといえます。自らは命の危険に晒されながらも、なお軍部と癒着して国民を裏切る同僚政治家に斬り込む姿勢には感動さえ覚えます。さらに斎藤は、昭和13月2月24日に国家総動員法案反対演説を行います。

「憲法に保障せられて居ります所の臣民の権利自由を、法律に依るにあらざれば制限することの出来ないものをば、憲法上の機関たる議会に諮らない、枢密院に諮らない、政府の独断専行に依って決したいからして之に要する委任状を貰いたい。白紙の委任状に[略]判を捺して貰いたい。是より外に此法案全文を通じて何等の意味は無いのである。(拍手)」

官僚組織に全権委任をさせるためにすら政府が民主的な合意形成手続を踏もうとしないことを厳しく断じているのです。立憲政治家とはこうした論拠を筋立てて議論を行うものかと感心させられます。民主主義が手続であることを再認識させられます。

そして、白眉とも言える演説が、昭和15年2月2日に行われた支那事変処理に関する質問演説です。大義なき戦争を論理的に批判していく演説の後半6割は、軍部を刺激する「聖戦の美名に隠れて」という言葉を聞いた衆議院議長が職権で議事録から削除してしまいました。それでも斎藤は演説します。3年目を迎えようとしていた大陸での戦争で、すでに10万人の将兵の犠牲がありながら、猫の目のように変わり責任を果たせない内閣に、国民が黙々として政府の命令、統制に服従するのは何のためか。「一つは国を愛するためであります。又一つは政府が適当に事変を解決して呉れるであろう之を期待して居るが為である。然るに若し一朝此の期待が裏切らるることがあったならばどうであるか、国民心理に及ぼす影響は実に容易ならざるものがある。(拍手)而も此の事が、国民が選挙し国民を代表し、国民的勢力を中心として解決せらるるならば尚忍ぶべしと雖も、事実全く反対の場合が起ったとしたならば、国民は実に失望のどん底に蹴落とされるのであります。」

この演説が原因となり、斎藤は帝国議会を除名されます。その後の日本は敗戦への道をひた走ることとなりました。斎藤の伝記を編んだ草柳大蔵は、「世に論を為すものに『言いたいことをいう』論者と『言うべきことを言う』論者の、二種類がある」と言い、言うべきことを言う論者の正論家としてのことばのちからを賞賛しています。

ところで、井上智洋駒澤大学准教授に『純粋機械化経済』という著書がありますが、AIが発展してシンギュラリティに到達した後に起きるであろう社会の予測を論理立てて系統的に行っています。そこでは、AIやロボティクスの発展により人間の労働が減るということを前提に、ベイシック=インカム(BI)を導入して富の再配分を行うことで、人間はマネジメントやクリエイティブな仕事に集中することができるとされます。まさに、官僚組織とシステムに支配される人間疎外ではなく、人間の存在が人間らしい活動に集約されようとするということでしょう。脱労働社会こそが自由と平等を最大限に両立でき、人々が最も幸福に暮らせる社会であると主張しています。

私たちはいまだAIの発展途上の時代にありますが、早晩そうした社会を迎えることとなるかもしれません。そこでは、人間を大切にし、人間らしさを大切にし、人間としての存在を大切にする社会が実現可能であると申せます。ねずみの殿様は国民一人ひとりを大切にし、その意見を代議する民主的手続の正統性を大切にしてきましたが、それを守るためには、かつての軍部のような存在と通謀するのではなく、人間にとって正論が必要であるということも教えてくれています。そうした人間が育つ土壌づくりについては、この後、教育長から教育方針演説により詳しくご説明申し上げます。

令和2年度は、第四次産業革命やソサエティ5.0の時代に乗り遅れることなく、SDGsの実現をめざして地域循環共生圏を創り上げるその第一歩を、議員のみなさん、市民のみなさんとともに印してまいりたいと熱望し、施政方針演説を閉じます。