平成29年度施政方針

更新日:2019年07月01日

流動化する世界と安定する国内政治

 丁酉(ひのととり)である平成29年(2017年)は、革命の年ともいわれる丙申(ひのえさる)である平成28年(2016年)から強い影響を受けることとなります。
 今から60年前の丙申であった昭和31年(1956年)も、わが国では「もはや戦後ではない」と言われ、ソ連ではフルシチョフがスターリンを批判し、その両国の間で日ソ共同宣言が締結されたり、初のムスリム共和国にパキスタンが移行したりする一方、ハンガリー動乱や第二次中東戦争のように東西両陣営で枠組みのゆるみが生じるなど、世界が大きく動いた年回りでした。
 60年経った丙申であった昨年も、イスラミックステートによるテロやイギリスのEU離脱国民投票、米国のトランプ政権誕生、日ロ首脳会談など、これまでの安定した枠組みが大きく崩れ始めた年でもありました。
 丁酉である今年は、革命の年である昨年の強い影響を受けながらも、大陸や半島など東アジアでのきな臭い動きに対して、わが国が日米同盟を基軸として大きな世界的変動を乗り切ることができるかが注目されます。
 世界が流動化する一方、国内政治はいわゆる「安倍一強」と表現される状況が続いてきました。各国首脳が交代したり国内情勢が不安定であったりするなか、わが国の首班が長期政権を続けていることはこれまであまりなかった状況であるといえます。
 その結果、国会運営にゆるみが見られるものの、人口減少・少子高齢社会の克服に向けた成長と分配の好循環の実現を目指した政策が、これまでも大きく変化することなく続けられてきております。
 地方財政計画も安定した水準を維持しつつありますが、社会保障関係経費の伸びなどにより財源不足分の一部を臨時財政対策債等により国と地方の折半で賄うこととされるなど、社会保障と税の一体改革プログラムによる消費税率引き上げの先送りによる影響は、地方に対しても少しずつ生じてきています。また、地方財政計画そのものも、「骨太の方針2015」で平成30年度までは一定の水準で確保するとされてはいるものの、それ以降の先行きは見通せない状況となっております。

世代間で支え合える新たな税財源やサービスなどのあり方

 本市におきましても、人口減少と少子高齢が着実に進行するなかにおいては、社会保障関係経費の自然増による歳出の伸びと税収変動や合併特例期限の到来による歳入の減少により、将来的な行政経営経費の自由度が極めて狭くなってまいります。
 これまでも取り組んでまいりました企業誘致や面的な都市開発による歳入の増、公共施設の統廃合を含む行財政改革による歳出の減のための取り組みについては引き続き着実に進めてまいらなければなりませんが、それらに限るだけではなく、例えば、都市計画税の導入や法定普通税の税率見直し、法定外目的税の新設などというような新たな税財源のあり方や、子育て世代に対する子育て環境の充実、高齢者の移動支援など新たなサービスのあり方について、世代を超えて聖域なく議論を始めなければならない時期に差し掛かってきたと考えております。
 新たな税財源のあり方については条例事項となりますし、新たなサービスのあり方については予算の歳出項目となりますことから、これらについて議決権を有する議会のみなさんと十分な議論を重ねる必要がありますが、それ以外の支え合いも含めて、地域福祉や地域防災や地域環境や地域教育や地域エネルギーなど、地域を主体としつつ市民のみなさんによる真摯な議論と率先した活動が期待されます。

地域の活力を生み出す公民連携

 近代のわが国は社会的な課題を克服するために、画一的な社会保障の基本法を定めて投網をかけるように対象者を救済してきました。雇用保険や医療保険、年金、労働法制、介護保険など、制度化されるたびに多くの課題が解決されてきました。しかし、現在ではそうした網羅的な政策により一度に多数を救済できる課題は少なくなるとともに、発達障がいや生活困窮など課題の多様化と分散化に伴い、公と民の間のグレーゾーンで困っている人たちが増えてきました。
 そうした個別の困難を抱える人たちを支えるためには、これまでのような公を行政が独占して画一的にサービスを提供し、それに民が対峙するというフレームでは限界を迎えており、行政から民の側へアクティブに踏み出すことも求められますし、企業や地域や市民も公の側を支える必要が出てまいります。人口減少・少子高齢社会においては、あらゆる主体が参画するなかで効果的効率的な地域をかたちづくっていかなければなりません。
 人口が増加し続け、税収が増加し続け、分配の果実が増加し続けた古き良き時代は遠くに過ぎ去りました。社会の基本OSが書き換えられようとしています。それにもかかわらず、精緻に組み立てられ、規則でがんじがらめとなったままのわが国の行政も地域社会も、何か新しいことに挑戦しようとするたびに、過去の細則や経過や言葉尻に一旦停止を余儀なくされ、時代のスピードに対してものごとの本質を捉えにくくなってきています。
 従来は施設整備の側面で語られがちであった公民連携について、近年では社会システムや地域づくりの側面でも求められるようになってきました。そして、そうしたソフトの公民連携は、地域から出発し、地域の活力を生み出し、全国に広がっていくものでもあります。

地域創生としごとづくり

 平成27年(2015年)10月に策定した『湖南市きらめき・ときめき・元気創生総合戦略』に基づき、議会のご理解を得て昨年11月に市民産業交流促進施設「ここぴあ」を開設いたしましたが、これと連携して市内産農産物をPRするための飲食や情報提供を行うための施設や農業体験と研修を行うための広場や圃場を「みらい公園湖南」として一体的に整備をいたします。そして、平成28年度に実施した市民農業塾をさらに進め、受講者が作付けから収穫・直売所への出荷までの一連の販売農家としての業務を実践する「市民農業塾実践編」を実施するとともに、挑戦する農業者に農地を貸し付けたり、「はたけの先生」を派遣したり、出荷者に対するマーケティングや商品化への支援、大学等と連携して特産農産物や6次産業化を促進してまいります。
 また、健康づくりや生きがいづくりにもつながるように高齢者を対象にした野菜づくりの学習・実践を行う「シルバー農業塾」を開催したり、障がいのある人などの就労を進めるため農作業を支援するジョブトレーナーの育成や働く場を創出したりするとともに、「イモ発電」への取り組みを拡充するなど、農業と福祉の連携と融合をめざし、これまで兼業農家を中心としてきた本市の第1次産業構造を市民総活躍による攻めの農業に大きく変えてまいります。
 さらに、本市産業の主力を担う第2次産業を将来にわたって支える人材を確保することが重要でありますことから、引き続き若年者や障がいのある人などを対象とした市内企業が参加する合同就職面接会を開催したり、魅力ある職場をつくり人材の定着を図るためにワークライフバランスや在宅ワークの推進、ものづくりの魅力を伝えるセミナーなどを開いたりすることで、離職や若年層の市外流出を防止するとともに市内企業への就労を促進し、経済の活性化と人口の社会移動増につなげてまいります。
 サービス業を中心とする第3次産業としては、平成28年度中に策定を予定しております空家等対策推進計画に基づき、市内空家・空き店舗データを活用して創業支援セミナーと連携させて創業希望者とのマッチングを図る創業支援を進めるとともに、地方創生拠点整備交付金により十二坊温泉ゆららを観光・情報発信拠点として整備拡充するほか、湖南三山やアール・ブリュットなど本市の有する観光資源を活用した観光発信を強化してまいります。

地域創生とひとづくり

 政治哲学者であるジョン・スチュアート・ミルのいう「権力は地方に与えられるが、知識は集権化される」という視点からは、現在の政府による地方創生施策はまさに予言されていたといえるかもしれませんが、その以前からも地方の取り組みがとりわけひとづくりやくらしづくりの面で国政に取り上げられてきたことは知られております。古くは環境アセスメントや情報公開・個人情報保護、生活安全、文化振興など、先行する都道府県レベルでの条例といった知的コンテンツを後追いで法律が全国展開してきましたし、本市の発達障がい者支援や大津市のいじめ対策、野洲市の生活困窮者自立支援など市町村レベルの取り組みが法律に取り上げられてきたのは近年の事例でもあります。
 来年度の文部科学省予算では、通級による指導の充実や外国人児童生徒指導の充実、チーム学校の推進や教育相談体制の充実などは本市のエビデンスを認めていただいて全国で体制が強化されるものですし、切れ目ない支援体制構築に向けた特別支援教育の充実については、本市の取り組みそのものを全国に横展開しようというものであり、まさに「障がいのある人が地域でいきいきと生活できるための自立支援に関する湖南市条例」第3条第4項の規定に基づき、長年にわたり国に対して制度化等による財政上の安定化が実現するよう働きかけてきたことによる成果であると申せます。
 発達段階に応じた支援を切れ目なくつないでいくことは本市がこれまで長年にわたり取り組んできたことでありますが、平成29年度には妊娠期から幼児期の子育て世代の支援の充実を図るとともに、産前産後のサポートや産後ケア事業により妊娠期からの切れ目のない支援を実施するために「子育て応援サポートセンター」を設置いたしますとともに、保護者の勤務の都合等により集団保育や家庭での保育を行うことが困難な病気にかかった児童等を医療機関に付設された専用施設で一時的に保育ができるように、病児保育サービスを市内2ヵ所で提供してまいります。また、子育て支援ニーズの急激な増加により私立認定こども園や小規模保育事業に対する支援もスタートさせていきます。
 教育内容については教育長による教育方針演説に詳細を譲りますが、平成28年度に引き続いて甲西中学校の耐震改築事業を進めますとともに、石部小学校のグラウンドを市内小中学校では初めて芝生化してまいりますとともに、市内小学校に空調機器を計画的に整備するための設計をしていくこととしております。
 障がい福祉サービスの提供と地域生活支援事業を推進するため、「第2次湖南市障がい者の支援に関する基本計画」の中間見直しを行うとともに「第5期障がい福祉計画」の策定を行い、「だれもが自分らしく、ともに生きるまち湖南市」の実現をめざして、障がいのある人とともにいきいきと暮らすことのできる地域づくりに取り組みます。
 社会保障と税の一体改革を受けて医療・介護分野では、医療・介護サービス提供体制の見直しとしての病床機能分化・連携と在宅医療推進、地域包括ケアシステムの構築、医療・介護保険制度の改革が同時進行していますが、甲賀保健医療圏域における医療提供体制については、1次診療施設と連携した公立甲賀病院を中心とする救急、外来、入院、地域移行のサイクルを確立するために、甲賀市長と協議を重ねてまいります。一方、国民健康保険財政運営の都道府県化を1年後に控えて制度設計が急がれますので県や各市町と連携をとってまいりますとともに、交通手段の発達と整合性の取れていない県内の保健医療圏域など地域医療提供体制の見直しについては県に強く求めてまいります。
 医療にかかるまでの健康づくりについても、健康増進のため努力された人にポイントを付与して健康寿命の延伸に対するインセンティブを働かせてまいりますし、新しい介護予防・日常生活支援総合事業を始めますことから、先に触れましたシルバー農業塾をはじめいきいき百歳体操、百歳大学、健康カラオケ教室など高齢者の地域デビューの場を設け、生きがいづくりや介護予防に努めてまいります。
 そして、平成30年度からの「第7期高齢者福祉計画・介護保険事業計画」に向けて、団塊の世代が後期高齢者となる2025年を見据えた地域包括ケアシステムを構築するため、在宅医療・介護連携や認知症施策の推進に取り組んでいくこととしています。

地域創生とまちづくり

 まちづくりでの公民連携は重要であり、本市においては、地域福祉や地域防災や地域環境や地域教育や地域エネルギーなど、地域を主体としつつ市民のみなさんによる率先した活動が、協働の担い手である地域まちづくり協議会を中心に取り組まれてまいりました。とりわけ、地域防災については、指定避難所となる学校施設などで避難所を実際に運営していただくこととなりますし、高齢社会において地域福祉を進めるために地域まちづくり協議会の存在は心強いものとなります。そうした地域まちづくり協議会の活性化を目的として、地域福祉等の事業をメニュー化した新型交付金制度を創設し、地域社会における自主的な課題対応の促進を図ってまいります。
 「湖南市地域自然エネルギー地域活性化戦略プラン」に基づき、エネルギーの自給率や利用効率の向上を図りながら地域自然エネルギーを活用したまちづくりを進めていますが、イモ発電として先に触れましたとおり、市内の遊休地等においてサツマイモの空中栽培を行い、イモの加工・販売を通して6次産業化に取り組む一方で、規格外品等を活用してメタン発酵によるガス化発電を目指すこととしておりますし、公共施設率先プロジェクトとして、防犯灯、街路灯をLED照明器具に交換してまいるとともに、昨年5月に設立したこなんウルトラパワー株式会社と協働してまちづくり事業等の地域振興に取り組んでまいります。
 移住定住促進事業の一環として、一定の期間内に婚姻届を提出し受理された世帯等に対して住居費や引越し費用について結婚新生活支援として引き続き補助を行いますが、一方で本市の課題の一つに若い世代の転出超過やまちづくり活動への若者の参画が少ないことがあることから、若者目線のアイデアをまちづくりに反映するために若者による政策コンテストを実施し、若い世代の郷土への誇りや愛着を醸成することで、若者の定住やUターンを促進してまいります。また、これまでも移住定住を促進するために地域おこし協力隊制度を活用してまいりましたが、さらにローカルベンチャー事業として、地域資源や課題を発掘しつつ実現性の高いプロジェクトを設計して地域での事業を創出し、都市部から若者を呼び込んで着実な定住と起業を促進してまいります。
 下水道事業の地方公営企業法全部適用を受けて平成28年度から上下水道ともに企業会計に移行しましたが、上水道事業については、平成28年度に策定いたします「資産管理計画」を受けて平成29年度には「施設更新計画」および経営の基本となる経営戦略を策定し、中長期的に安定した事業経営を図りますとともに、下水道事業については、平成28年度に策定いたします経営戦略に加えて平成29年度には「下水道ストックマネジメント計画」を策定し、中長期的な視点からの施設管理の最適化を図ってまいります。
 災害に強いまちづくりとしては、災害時の迅速な復旧の基礎資料とするため、石部北工区、岩根花園工区の地籍調査を進めるとともに、災害時等の情報基盤となる住居表示を柑子袋地先で整備してまいります。また、既存住宅の耐震診断、耐震改修を促進するため、木造住宅耐震診断員の派遣や木造住宅耐震改修に対する補助を行います。さらには、地域防災の拠点となる東庁舎について、周辺の施設整備を含め機能を集約し複合化に向けて検討するとともに、指定避難所としての甲西中学校に防災倉庫を整備し、防災士育成事業として地域の防災リーダーの育成などを行ってまいります。
 そして、これらのさまざまな地域活動が展開されるためのインフラ整備も進めてまいります。安全で快適な交通環境を確保するため、道路ストック点検に基づきイワタニランド1号線と広野八重谷線で舗装修繕を、橋梁長寿命化対策として荒川橋架け替えを行うとともに吉永山手線、甲西駅美松線、十禅寺2号線の道路新設や三雲小学校線、東浦線の歩道整備などを行い、生活道路の安全性、利便性の確保に努めます。また、国道一号から栗東湖南インターチェンジを通じて、直接名神高速道路への利便性が向上したことにより高速道路網等のインフラを活用した物流拠点や新産業団地の実現可能な整備手法や運営手法を検討してまいります。さらに、JR草津線三雲駅周辺整備事業については新年度早々に新しい駅舎と自由通路が完成しますことから、引き続き公園緑地、遊歩道等の整備を進めますとともに、石部駅周辺整備事業においては自由通路等の基本設計を進め、三雲駅、甲西駅前では自転車駐車場の整備も行ってまいります。

変わらないために変わり続ける

 『生物と無生物のあいだ』がベストセラーとなった分子生物学者である福岡伸一青山学院大学教授に『変わらないために変わり続ける』というエッセー集があります。分子生物学者としてニューヨークを観察し、まちが生きている意味を問い直している作品ですが、その生きているまちのダイナミズムは一切の固定、不変、滞留を許さず、あらゆる同調圧力、均質化傾向に反発することが、まちに集まった人たちにとてつもない不自由を強いるというなかで、実は限りない自由を感じさせているのだと主張しています。まさに、まちが生き続ける、そこに住む人たちが生きがいを感じ続ける、それが変わらないためには、常に変わり続けなければならないということではないかと問いかけられています。
 昨日まであったことが、今日も同じようにあり、明日以降も同じようにあるだろうと考え行動していくことを伝統主義といいます。古き良き伝統を守ることとは異なり、良かろうが悪かろうが将来にわたって何ものも変えようとしないという思考行動様式のことを指しますが、一度この伝統主義に呪縛されてしまうと、まちが固定、不変、滞留して、現状維持で精いっぱいとなり、その先に待っているのは衰退ということになってしまいます。
 本市といたしましては、地方創生の流れを受けてさまざまな地域活性化にチャレンジをするとともに、新しい公共の担い手である地域まちづくり協議会を小規模多機能自治のカウンターパートとして協働を進め、公共施設等総合管理計画に基づく総論賛成各論反対ではない公共施設のあり方についての議論を深めながら、おうみ自治体クラウド協議会を通じた情報システムの共同化というかたちなどでの、次の世代にしっかりと引き継ぐことのできる自治のすがたの変容を常に追い求めていかなければなりません。
 変わらないために変わり続ける、湖南市のきらめく活躍は潜在力の目覚めからであるということを共有し、議員各位をはじめ市民のみなさんとともにまちづくりを進めてまいる所存でございますので、引き続きご理解とご協力を心からお願い申し上げまして、平成29年度の施政方針といたします。

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