石部中学校区編【エピソード2:健康づくり担当保健師の視点】
「山元さん、血圧の状態はどうですか?」
石部中学校区では毎月恒例の“まちの保健室”を開いている。私は血圧計を片手に吉川さんと健康相談に応じているところだ。吉川さんは、もともと血圧が高く地域の健康相談会に足しげく通われていたので自然とつながりができた。今では地域の健康リーダーと してお手伝いに来てくれている。
「松原保健師さん、ちょっとこっち見てもらえる?森田さんや横山さんも血圧が高くて 悩んでいたけど、今ではだいぶ落ち着いてきたみたい。」
地域のことを良く知る吉川さんは、いつも周りの雰囲気を大切にしてくれていて、集いの場所はとても明るくて活気がある。
私の地区担当は石部中学校区。市の南西部に位置していて、石部地域と石部南地域にエリアが分かれている。
石部地域は、江戸時代には京立ち石部泊まりと言われ、京都を出発して1泊目の石部宿場町としてにぎわっていたまちだ。今でも、小島本陣跡や田楽茶屋など当時を思わせる建物や旧東海道沿線の街並みは、そこはかとなく風情を感じさせる雰囲気がある。旧東海道を活用した地域のまつりは多くの人が集まり、地域力はもとよりイベント力にも底力を感じる。「石部のいもつぶし」は、文化庁から100年フードとして地域に根付く食文化に認定されている。
雨山文化運動公園は、全国森林100選の「臥竜の森」ハイキングコースも含め体育館やテニス場など運動できる広大な施設だ。
石部南地域も歴史文化の宝庫だ。長寿寺本堂や常楽寺の本堂・三重塔は国宝で重要文化財も多い。紅葉シーズンは2万人もの観光客が訪れるという。じゅらくの里は、キャンプ場やこどもの遊具が備わっていて市内外から子連れの家族が集い、障がい者にも優しい遊歩道が整備されている。障がい福祉の祖である糸賀一雄氏が建てた近江学園などの福祉の取組も有名だ。域内は坂道が多いが棚田の風景が美しい。昭和天皇即位の際に献上した 「東寺献上ごぼう」の復刻や地域おこし力隊 として市外から移住した人などの地域活動も盛んだ。阿星山の登山は地域のこどもたちにもチャレンジできるほどよいコースだ。
思い返せば2023年当時、私は入庁して10年目だった。保健師としての仕事にも慣れ、周囲の保健師にも頼られる存在にもなっていたと思う。地域の保健活動にも積極的に参加し、高齢者サロンやサークルなどから健康講座のお声がかかることも多く、充実した毎日が送ることができていた。
でも、あることがきっかけで悩みを抱える毎日になった。それは、第3次健康こなん21計画を策定するための調査結果で、この学区の健康課題が明るみになったことが原因だ。
石部中学校区域では他の地域と比較して、自分が健康だと思う主観的健康観や健康診断の受診率が5ポイント以上低いという調査結果が出ていた。これは自分の健康行動に自信がない表れでもある。身近な人に自分の健康づくりの方法を伝える口コミ効果は地域の機運を高めるために必要なことだが、これでは他人への波及効果が望めない。
また、40歳以上の男性・女性ともに血圧が高い傾向も健診結果から見えた。私は、地域全体が取り組む健康づくり活動を行い盛り上げることが重要だと感じていた。
それまで私は、保健指導や健診の手続き業務などの法定の保健業務を堅実に行ってきた。市民からの派遣依頼で地域にも出て、講座を開いたりして、市民の健康を守るとても 大切な仕事をしているという自負はあった。それはそれとして、このような局面になった時に、地域を俯瞰的に見て施策を講じるポピュレーションアプローチをしたい、とひそかな思いは以前からあった。そして課題は目の前に転がっている状況だ。
保健師冥利に尽きる。成し遂げたい ―
ただ、本格的に新しく企画をすることが初めての経験で、どこから手をつけて、何をどうすれば成果が上がるのかわからなくて頭を抱えていた。そんな私を見かねて先輩の宮木保健師が声をかけてくれた。
「松原さんにとって、公衆衛生看護学におけるまちづくりで大切なことは何?」
「地域で生活する人々の健康状態や、生活環境などの実態を把握して、健康を守るためにどのようなはたらきかけが必要かを分析する地域診断が大切です。」と、教科書どおりに答えた。
「じゃあ、はたらきかけるときに大切なことは?」
「いかに効率的・効果的な方法を検討して実践することです。」
「なるほど、それはあなた一人ができる範囲での方法ってことなの?」
「あ・・・。」
そうか、はたらきかけるときに必要なことは地域とのネットワークを活用すること。でも、私にはそのようなネットワークはないし、 作り方がわからない・・・。
「まちをつくっているのはヒトなんだよ。だから、まずヒトを中心に考えて、後から自分のやるべきことをくっつけていけばいいのよ。あなたは、もっとヒトを頼りなさい。」
先輩は私の背中をポンッと打った。心地よい強さでこころを励ますように。
遠くから、「宮木さーん」と呼ぶ声が聞こえて、「じゃあ、また」と、先輩は呼ばれた方にそそくさと行ってしまった。
― もっとヒトを頼りなさいよ ―
そうか、私は未熟だからいろいろな人に助けてもらえばいいんだ。背中のじんわりとした感覚から先輩の言葉の重みが伝わった感じがした。それが消えてなくなると、私の中で吹っ切れた。
そこから私は、少しでもつながりのある人や先輩から地域の鍵となる人たちを頼り、ネットワークをつくりながら、私なりの健康づくり計画を検討していった。
血圧は循環器疾患や糖尿病にもつながることから、私は多くの協力者と「地域をまるっと!血圧安定化プロジェクト」を協働で立ち上げ、地域のスーパーや個人商店にも協賛してもらいながら進めてきた。スポーツ推進員と健康推進員がコラボした健脚ウォークなど企業の協賛も募りながらの地域イベントや、健康遊具がある里山しょうらい公園の利用促進などが功を奏している。地域ふれあいまつりなどのイベント啓発や学校が保護者を通じて呼びかけているおかげだ。健康推進員も主体になって地域の特産品を使った血圧を下げるためのレシピを広める活動も始まっている。古民家を改修したカフェやコミュニティ集いの場所では、移動保健室のスペースとして使用の協力を得ている。
もともと地縁の強いこの地域は、文科系・運動系サークルともに多く、健康課題を共有し一致団結して取り組むことで健康づくりの機運が高まり、主観的健康観も上がるという成果が出た。自分の健康づくりに自信が出ることは、他人への健康行動に影響を与えることだから、今後も地域にとって素晴らしい結果につながるものと感じている。
ある日、地域の新聞社から健康づくりの取組について取材を受けた。
「松原保健師にとって、健康のまちづくり とは何ですか?」
私は即座にこう答えた。
「私にとって健康のまちづくりとは、いろんな意味でヒトづくりです!」
言葉が足りてないのだろう。 記者はいぶかしげな表情を浮かべた後、丁寧な質問に切り替えた。
にもかかわらず、一向に慣れない私の対応に多くの時間を費やした。
そこから私は、少しでもつながりのある人や先輩から地域の鍵となる人たちを頼り、ネットワークをつくりながら、私なりの健康づくり計画を検討していった。
血圧は循環器疾患や糖尿病にもつながることから、私は多くの協力者と「地域をまるっと!血圧安定化プロジェクト」を協働で立ち上げ、地域のスーパーや個人商店にも協賛してもらいながら進めてきた。
スポーツ推進員と健康推進員がコラボした健脚ウォークなど企業の協賛も募りながらの地域イベントや、健康遊具がある里山しょうらい公園の利用促進などが功を奏している。地域ふれあいまつりなどのイベント啓発や学校が保護者を通じて呼びかけているおかげだ。健康推進員も主体になって地域の特産品を使った血圧を下げるためのレシピを広める活動も始まっている。古民家を改修したカフェやコミュニティ集いの場所では、移動保健室のスペースとして使用の協力を得ている。
もともと地縁の強いこの地域は、文科系・運動系サークルともに多く、健康課題を共有し一致団結して取り組むことで健康づくりの機運が高まり、主観的健康観も上がるという成果が出た。
自分の健康づくりに自信が出ることは、他人への健康行動に影響を与えることだから、今後も地域にとって素晴らしい結果につながるものと感じている。
ある日、地域の新聞社から健康づくりの取組について取材を受けた。
「松原保健師にとって、健康のまちづくりとは何ですか?」
私は即座にこう答えた。
「私にとって健康のまちづくりとは、いろんな意味でヒトづくりです!」
言葉が足りてないのだろう。
記者はいぶかしげな表情を浮かべた後、丁寧な質問に切り替えたにもかかわらず、一向に慣れない私の対応に多くの時間を費やした。
基本データ

行動変容ステージ
・「生活習慣病を高める飲酒量を摂取している人」、「禁煙をしたいと思っている人」の割合がやや高い


特定健診データ
・40歳以上では、血圧の高い人が多い。
・HbA1c、LDLが高い人はおおむね少ない。
・肥満も少ない。

更新日:2025年03月28日